PAST EXHIBITION
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5/17(水)〜 5/28(日)
※6/2(金)まで延長となりました。
※ 毎週水曜〜土曜日、最終日曜日 開廊
13:00-19:00
*会場の混雑状況により入場制限を設ける場合があります。列にお並びいただく場合があること、予めご了承ください。
*状況に応じて、会期・営業時間の変更する可能性があります。変更の際は、ギャラリーウェブサイトとInstagramにてお知らせ致します。
CALM & PUNK GALLERYでは、5/17(水)から、加々見太地による個展 「未踏の山とノンサイトトポグラフィー Unclimbed mountain and non-(sight/site) topography」を開催いたします。
本展は、加々見太地が2022年秋にネパール・ヒマラヤにある未踏峰プンギ(6524m)の登頂を目指した軌跡であり、その体験を経て制作された写真や映像、立体作品が展示されます。国内での制作はCALM & PUNK GALLERYのレジデンス施設であるGASBON METABOLISM を本個展の制作拠点の一つとして滞在制作を行いました。
これまで加々見は、自身の身体で感じた世界や自然界の肌触りを元に、彫刻や写真作品の発表を続けてきました。その一方で、国内での冬季登攀や、2018年にヒマラヤのアイランドピーク、翌年2019年に北米大陸にあるアラスカのデナリ遠征など本格的な登山活動をしています。
2022年の秋、加々見はネパール・ヒマラヤにある未踏峰プンギ(6524m)の登頂を目指しました。まだ誰にも登られていない未踏峰が故に、Googleの衛星画像や地形図といった、限られた空間の情報収集から遠征が始まり、未踏の雪稜へトレースを刻むに至りました。
本展では、今回の遠征において得られた実際の体験や写した景色を、さまざまな距離感のバリエーションを用いて提示し、山をめぐる身体が捉えた、多元的な時間や空間の感覚を昇華させた作品群が並びます。この機会に是非ご高覧頂ければ幸いです。
僕は2022年秋、ネパール・ヒマラヤにある未踏峰プンギ(6524m)の登頂を目指し、42日間の遠征に出掛けた。中国との国境稜線に位置する誰にも登られていないこの山にはコロナ禍の前から目をつけていて、ようやく行くことができた。結果としては、チーム全体の経験不足もあってか仲間の高度順応が上手くいかず、登頂することは叶わなかった。希薄な大気の中、ひたすらラッセル※1をしたが、力及ばず、僕たちは標高6150m地点で撤退を決めた。
未踏峰には身体的な視点の情報が存在しない。衛星画像や地形図はその山の外形をおおよそ明らかにするが、人跡未踏というだけで、そこには無限のディテールと可能性(未知性)が備わっている。登ろうとするならば、これまでの経験で培った五感と想像力を総動員して、外界のテクスチャを鋭敏に感覚する必要がある。薄い酸素に肺を慣らし、あらゆる凹凸に身体を沿わせて、外界との調和を図っていく。未踏峰登山という行為を通して、身体と世界の’’かたち’’をなぞり、手触りを確かめることを、僕は望んでいた。
悪天候が続いたキャラバンを終えて、ベースキャンプからはじめてプンギの姿をみた時に、その荒々しさに驚いた。はっきりと写された写真は無く、事前に見ていたGoogle Earthのイメージと地形図の情報から散々想像をめぐらせてはいたが、実際の山容は圧倒的だった。その鮮明な印象が、あたかも空気を震動させているかのように、この身体に響いている。緊張感と冷え込んだ空気が相まって、血管が収縮し、気道がつまるような感覚があった。
それから数日後、ベースキャンプから眺めていた雪稜に這いつくばって、喘ぐようにラッセルしている自分がいた。ディスプレイから始まり、遠望での目測、雪にまみれるゼロ距離へと、山の懐に潜り込むほどに、あらゆる情報に五感が刺激され、解像度が高まっていく。そして、行程には絶えず、風景、天候、太陽、風、地図などの俯瞰的な視点が去来していた。そのいずれもが、自分の立ち居振る舞いに大きく影響を与えうる存在だ。身体的視点と俯瞰的視点とのイメージの往来が、この山行を象徴していた。時空を超えた対照が描き出すのは、感触を伴った山と身体の’’かたち’’である。
未踏峰プンギ遠征にまつわる今回の制作は、僕が見た情景(sight)そのものではなく、その場所(site)そのものを表すものでもない。身体と接触していた山の端に刻まれた痕跡と、身体に侵食した山の気配であって、山と身体の重なりの幅員が描き出す一本の線を、感触と表象の地形図としてしたためる試みである。そして、「未踏峰登山」というひとつの限定的な’’オブジェクト’’ではなく、僕の身体が至るあらゆる環境との繋がりを見出して、山の裾野を拡大して捉えていく。サイト/ノンサイトの往還とイメージの往来を重ねていくなかで、個人の体験を、限定された時間と空間としての存在から開放し、思索の場へと発展させていくことを志向する。
※1 深雪をかき分け、雪を踏み固めて道を作りながら進むこと。