PAST EXHIBITION

ancco 「Baby.zip」

会期

2023年1/21(土)〜2/12(日)
※ 水曜〜日曜日開廊 

営業時間

13:00-19:00

ご来場に関して

*ご来場の際は、マスク着用、検温、消毒にご協力お願いします。

*会場の混雑状況により入場制限を設ける場合があります。列にお並びいただく場合があること、予めご了承ください。

*状況に応じて、会期・営業時間の変更する可能性があります。変更の際は、ギャラリーウェブサイトとInstagramにてお知らせ致します。

1月21日(土)から、CALM & PUNK GALLERY にてanccoによる個展「Baby.zip」を開催します。弊ギャラリーで2020年10月に個展を行ってから、2回目の個展となります。繊細ながらも大胆な存在感を放つ約1mの大型陶器作品の他、立体作品と平面作品で構成されます。

anccoの作品群は、一見、可愛らしく色とりどりなキャラクターたちが登場する所謂「Kawaii」的な特徴があります。実際に、国民的アイスクリームと言って差し支えないであろう〈pino〉のパッケージデザインにキャラクターデザインを提供するなど、anccoにとっても稀なケースではありますが、最大公約数的な「Kawaii」が必要とされるであろうプロジェクトにも参加しています。しかし、その経歴や作品を隅々まで観察すると、もちろんそれだけでラベリングできる作家ではありません。SNS以前の時代にanccoを育んだ「お絵かき掲示板」などのインターネット文化、現代社会・政治の様相、使い古されたぬいぐるみや細部への愛情などの要素が混じり合っています。

anccoは、小学校低学年の時からインターネットの「お絵かき掲示板」に、複数のハンドルネームを使い分けながら、自身の描いた絵を投稿するようになります。「正体を明かさず、ペルソナを作り上げるようにして作品を発表していた日々は、現在の(もしくは少し前までの)活動とあまり変わらないかもしれない」とanccoは言います。それは、自信のない自分やネガティブな部分を覆い隠すかのように、作品を通して脚色された自分を作り出すような感覚です。また当時の「お絵かき掲示板」には、簡易版Photoshopのようなツールがついており、anccoは小学生の時からすでに、⌘Z(=元に戻す)が可能で、1mm単位でコントロールすることのできる画像作りをしており、それは彼女の偏執的とも言える細部への拘りの下地になっていると言えるでしょう。

本展で発表される新作群のほとんどは、anccoにとっても初の試みとなった4ヶ月間に渡る滞在制作の結果です。〈滋賀県立陶芸の森〉に滞在した彼女は東京で目にしている光景や、その環境下で巡る思考、気のおける友人などから隔離された中で、陶芸という技法・素材と徹底的に向き合うことになります。それは、頭の中にあるイメージを寸分の狂いなく、画面をコントールして描き出すことで作品を作り出していたanccoにとって恐いくらいに新しいものでした。粘土を時間と愛情をかけて成形し、窯に入れて焼き上げる過程を通して、anccoがこれまで扱ってきた素材のようには彼女の統制を受けないことを知ったのです。「陶芸は理想を良くも悪くも打ち消してくる。そもそも強迫観念がつよく、こうでなければならないという気持ちで常にがんじがらめになっている私にとってそれを受けいれることは最初は困難だった。受け入れることの連続。それは自分を受け入れていくことにとても似ていた」とanccoは言います。

この変化は、彼女の作品に大きな影響を与えました。元々の美学は変わらずとも、脚色された作家像ではなく 、個人としての内面や葛藤が強くモチーフとして表出するようになります。幼かったanccoにとっての恐怖、悪名高いコンピュータウイルスの名前としても知られている欺きの隠喩「トロイの木馬」。困難を乗り越えたあと、傷に貼った「絆創膏」。作品群を通して見ることのできる、ヒビを補修した後や、経年変化したようなパステル調だが褪せた色合い、子供の遊具のようなモノたちについて「私が昔使っていた子供用品が本来の形とは別の用途で実家で使われていたり、昔好きだったおもちゃがかつて使っていた自分の部屋や物置の隅でほこりをかぶり朽ちている様子に似ている。子供ながらに自分の好きなものを見つけて、与えられ、飽きて、色褪せて、壊れて、傷がついて。幼い私の関心がなくなってしまったそれらを修復していま大事にできたらと思う。そこに佇む姿には、かけがえのない大切な記憶だったり今の自分を形成する何かが刻まれている。そういった個々が持つノスタルジーが刻まれたような、どこかに取り残されているけれどずっとそこにあるものを表してる。」と続けます。

そして、「子を持つ適齢期と言われる年齢に自分が近づいたことで心の隅に置いておいた気持ちに目を向けるようになった。未だに自分のことで、毎日を生きるのに精一杯な自分が、自分の無力さを受け入れながら日々駆け抜ける重い鎖のついたおしゃぶりを咥えた自分自身を作ったのかもしれない」とanccoが示す「赤ん坊(= Baby)」は象徴的なモチーフです。この展覧会は、「baby.zip」と題されています。zipは圧縮されたファイルを示す拡張子であり、本展では大きな赤ちゃん( = ancco) の中にあった感情が解凍されて展示されています。「赤ん坊」を心の中に持つ全ての大人の皆様に本展をご高覧頂ければ幸いです。